大昔のテレビゲーム

私がまだ幼い頃、出始めたばかりの家庭用ゲーム機が、我が家にやってきました。テレビゲーム機と言っても、黎明期のものですから、黒い背景に白い点や線を用いた単純なものでした。ボールを扱うゲームのテニス、サッカー、ホッケーなどは、ゴールの幅やボールの大きさが、かろうじて違うだけでした。対戦型以外に、壁打ちテニスがあり、一人でも遊ぶことがありましたが、単純ですぐに飽きてしまいました。

 ゲーム機が我が家に来た時、ライフルの形をしたおもちゃがついていました。幼かった私は、少し物怖じしてしまい、遊んだことはありませんでした。しかし思い立ってのある日、恐る恐るスタートボタンを押してみました。「あれ、何もうつらないな」としばらく真っ暗なブラウン管を見ていると、急に画面の左から右に猛スピードの白い何かが見えました。そしてまたふいに今度は違う方向から白い何かがさっと流れて消えました。まるで流れ星のようです。その瞬間に「おおーっ」と叫び、ライフルを構えて、白い光を待ちました。そこまでの動作は、本能的に反応したと思います。そして、次の白い光を打ちました。しかし、ライフルからは何か出た様子がありません、当然に当たったという感触もありません。何度もライフルのトリガーを引いて打ち続けていると、突然、画面に大きく「1」という表示が出ました。当たったようです。「えっっスゴイ!!!」当たった瞬間、気持ちが昂ったことを今でも鮮明に覚えています。ライフルの銃口側で、画面の白い光を感知していると直感的にわかったからです。ライフルから発射した弾を的にあてるのではなく、的側の白い光をライフル側で感知するという逆の手法に、感激したのでした。それから、自宅に遊びにくる友だちに、この凄さを熱弁していましたが、ゲームに夢中で誰も興味を持って聞いてくれませんでした。

 さて、弁理士になってまもなく、名著で知られる元特許庁審査官のセミナーを受講した時のことです。セミナーのテーマは「審査官は進歩性をどう判断するか」だったように思います。やがてセミナーが終わり、質疑応答の時間、「特許庁在職中の審査で、最も印象に残っている発明は何ですか?」という質問があり、なんと、あの私の知っているクレー射撃ゲームの発明をあげたのです。「テレビ画面から放射された光を銃側で検知するなんて、これぞ逆転の発想。担当した審査の中で最も記憶に残っている一番の発明だ」とお話しされました。その言葉を聞いた時の私の驚きは言うまでもありません。30年以上前の感激がフラッシュバックされ、ここにいることの必然を感じずにはいられませんでした。

弁理士 舩曵崇章